臨床データ

脊椎・脊髄グループ上肢グループ下肢グループ腫瘍グループ

【脊椎グループ】

 脊椎部門で主に治療の対象としている疾患は頚椎症性脊髄症や頚椎後縦靱帯骨化症などの頚椎疾患、腰部脊柱管狭窄症、椎間板ヘルニアなどの腰椎変性(加齢性)疾患、胸椎加齢性疾患、脊椎腫瘍、炎症性疾患、脊柱変形(側弯症、後弯症)です。

< 頚椎の病気 >
頚椎症性脊髄症や後縦靱帯骨化症は日本を含めたアジア系人種に多く発症する疾患であるため、多くの知見が日本から世界に向けて発信されております。片開き式脊柱管拡大術は、当教室の平林により1978年に創始された術式であり、頚椎疾患に対する手術として最も広く行われている術式の一つです。本術式は手術時間(通常1時間前後)、術後安静期間(1日)も短く安全性の高い術式として知られ、高齢者にも積極的に使用できる術式です。一方、頚椎椎間板ヘルニアなど病変には前方固定術を行うこともあります。また変形や脱臼などの疾患にはインプラントを使用した矯正固定術も行っております。

< 胸椎の病気 >
胸椎後縦靱帯骨化症は治療が難しい疾患の一つですが、前方固定術と後方除圧+固定術を使い分けることで安定した成績が得られております。

< 腰椎の病気 >
脊柱管狭窄症:最近の高齢化社会を反映して、脊柱管狭窄症が急増しています。腰部脊柱管狭窄症に対する手術には神経除圧術と椎弓根スクリューなどのインプラントを使用した固定術があります。世の中ではインプラントを使用した固定術が大流行していますが、手術を必要とする患者年齢の高齢化、医療経済上の問題、術後の合併症などを考えますと、固定術一辺倒では問題があります。一方、腰椎変性疾患に対するもう一つの流れは低侵襲手術です。当科では、中高年の活動性が高い方で、不安定性が強い変性辷り症などに対しては、インプラントを使った脊椎固定術を積極的に行っている一方で、術後の疼痛軽減、術後安静期間の短縮、腰背部の筋肉、靭帯、骨など正常組織の温存を目的とした腰椎棘突起縦割式椎弓切除術を考案し、施行しております(図1)。さらに症例によっては内視鏡手術を用いた神経除圧術も行っております。このように、インプラントを使用した固定術とより侵襲の少ない神経除圧術との使い分けを十分考慮し、個々の患者さんに合った治療計画を立てております。



椎間板ヘルニア:椎間板ヘルニアに対する後方手術としては主に内視鏡下手術を行っております。術後疼痛の減少や後療法の簡略化により、手術を受けられた方の満足度も高いようです。本教室では日本整形外科学会の脊椎内視鏡技術認定医が2名在籍し(松本准教授、石井助教)、安全で精度の高い手術を心がけております。

側弯症:側弯症を代表とした脊柱変形の手術は、松本准教授、渡辺講師を中心に行っております。強い矯正力を発揮できるさまざまなインプラントを駆使して手術を行っております。特に、思春期の側弯症に対しては椎弓根スクリューを使用して、より高い矯正を目指して治療しております(図2)。特発性側弯症だけでなく、全身の合併症を伴った様々な原因による症候性の側弯症例に対しは、他科との協力のもと、それぞれの症例にあった適切な治療法を選択しております。術後の成長が期待される幼児の側弯症に対しては、脊椎の成長に合わせてロッドを適宜延長していくgrowing rod techniqueを行っております(図3)。
 生まれつきの脊椎の異常により生じる先天性側弯症に対しては骨切り術などを用いた難易度の高い手術も行っております。成人例の側弯症に対しては、椎弓根スクリューに加え、骨切り術、椎体間固定術などさまざまな手技を併用して、できるだけ安全かつ効果の高い手術をめざしています(図4)。また、より安全な椎弓根スクリューの設置方法やより矯正力の高い手術手技の開発、より科学的な側弯症の評価方法の確立を目指して研究を進めており、その研究成果を今後の治療に生かせるように努力しております。このような側弯症の専門外来は毎週月曜日の午後に行っております。側弯を含めた脊柱変形の手術は毎週行われており、手術件数は年々増加しており、2008年度には70件に達する見込みです。




脊椎腫瘍:原発性および転移性脊椎腫瘍など、技術的に困難な手術治療も積極的に手がけております。可能であれば腫瘍を一塊として摘出する脊椎全摘術を行うこともあります。摘出が不可能として他院で手術を断念された患者さんにも可能であれば腫瘍の全摘術を行う場合もあります。

< 主な研究テーマ >
脊椎インプラントの開発:慶應理工学部、日本メディカルマテリアル社との共同で脊椎インプラントの開発、人工骨の開発、椎間板変性の機序解明などが進行中です。脊椎インプラントは日本人に適したものをとの考えから、比較的小型で使用しやすいものをMark Iとして開発いたしました。日本人の脊椎骨格を晒し骨、CTなどから測定して、インプラントのサイズを決定し、生体力学的な検討は理工学部が担当し、インプラントが完成致しましたが、現在さらに性能の向上をはかるためMark IIを開発中です。人工骨は、上智大、明治大との共同研究として開発研究が進行しております。再生医療におけるscaffoldとして、あるいはBMPなどのcarrierとしてその有用性が期待できます。まだ、動物実験の段階ですが良好な結果が得られています。
椎間板代謝:椎間板変性の機序解明に関しましては、千葉准教授、高石助教、辻助教を中心に、椎間板代謝の生化学的分子生物学的解析や椎間板ヘルニア原因遺伝子の究明などさまざまな基礎あるいは臨床研究が行われております。
画像解析:脊椎椎間板の加齢変化や脊椎変形の進行、骨粗鬆症の状態などを最新鋭のMRIやCTなどの画像検査法を駆使して分析しております。
脊柱靭帯骨化症:2008年より厚生労働科学研究費補助金( 難治性疾患克服 研究事業)による脊柱靭帯骨化症の研究の主任研究員に戸山教授が就任し、当科が事務局となり難治性疾患とされている脊柱靱帯骨化症の研究を全国規模で行っていくことになりました。


松本守雄

【脊髄グループ】

 当院における脊髄疾患の手術件数はこれまでの症例をまとめると約1000件にのぼり、近年さらに増加の一途をたどっています。また最近では、他県や他大学から紹介される患者数も増えてきております。これは脊髄疾患が非常に繊細な手術手技を要し、手術に伴う危険性が高いために限られた施設へ紹介される傾向にあるためと考えます。
 特に脊髄腫瘍の手術には、術前の画像診断に基づいた的確な術前プランニング、最新の手術器機と顕微鏡視下での確実な手術手技、術中脊髄モニタリングなどが要求され、さらに数多くの治療実績に基づいた治療体系の確立が必要です。中でも髄内腫瘍の摘出術は難易度が高く、高度な技術を要しますが、当院では既に200例を越える治療経験があり、上衣腫、星細胞腫、血管芽細胞腫、海綿状血管腫など、星細胞腫を除いたほぼ全症例で腫瘍全摘出が可能であり、機能的予後に関しても概ね良好な成績をあげております。これまでほとんど摘出術が困難とされてきた星細胞腫であっても低悪性度の場合は、約7割の症例で腫瘍全摘出が可能となってきています。また、脊髄内嚢腫性病変(類上皮嚢腫、類皮嚢腫、上衣嚢腫、神経腸管嚢腫、くも膜嚢腫)の治療経験も豊富にあり、安定した治療成績を得ています。
 硬膜内髄外腫瘍では神経鞘腫や髄膜腫が多く、特に他施設から紹介頂く症例には上位頚髄発生例の砂時計腫や髄膜腫の腹側発生例や再発例などの難易度の高い症例が多くなっていますが、術中モニタリングやCUSAなどを駆使して、良好な成績を得ています。その他にも、比較的稀な粘液乳頭状上衣腫も30例にのぼる症例の経験があり、手術的治療は腫瘍全摘出が原則であるが、被膜を破ると髄腔内播種する可能性があるため、手術には細心の注意が必要です。術前に被膜が既に破れている場合は、術後全脳・全脊髄の放射線照射を行うことで再発を防止できています。
 脊髄空洞症も近年症例数は増加しており、大後頭孔減圧術、空洞くも膜下腔シャント術など異なった手術法の手術適応を明確にすべく幾度かの治療方針の変遷を経た結果、少なくともキアリ奇形に伴う空洞症の大部分の症例は、大後頭孔減圧術で良好な成績が得られることを明らかとしました。? その他にも、脊髄係留症候群、脊髄ヘルニア、脊髄動静脈奇形、脊髄先天奇形など多様な脊髄疾患に対する治療を行っており、これらを総合すると年間約100件の手術を施行しています。さらに、当施設では患者さまからの貴重な手術検体提供や遺伝子採血などのご協力のもと脊髄疾患の病態解明とより優れた治療法の確立ための基礎研究も行っています。



顕微鏡下での極めてデリケートなテクニックが必要である。国内では群を抜く症例がある。

中村雅也

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